この記事のポイント(3行要約)
- ■ 誘導加熱の原理:
交流磁場によって金属内部に発生する「渦電流」と、その抵抗による発熱(ジュール熱)を利用した非接触加熱の仕組みを解説。- ■ 解析の重要点:
高精度なシミュレーションには、表面に電流が集中する「表皮効果」を考慮した適切なメッシュ分割(最低2〜3層)が不可欠。- ■ 高度な連成解析:
温度変化による磁性変化を考慮した「強連成解析」により、歯車の焼き入れなど実務に即した複雑な熱挙動の予測が可能。
1. 誘導加熱の基本原理(電磁誘導)
誘導加熱は電磁現象を利用した加熱方式です。身近な例としては、省エネや安全性(火を使わない)の観点から、
IHクッキングヒーターが家庭で使われています。また、誘導炉のように、産業用にも広く利用されています。
技術情報 ”解析あれこれ” 第1回目では誘導加熱を取り上げたいと思います。
下図のように、一様で、時間的に一定の磁場中に設置されたコイルを考えます。
図1.一様磁場中のコイル
特に何も起こらず、コイルに電流が流れることはありません。
(磁場を与えてから十分に時間が経っている場合)
次に、磁場を交流のように変動させますと、コイルに起電力$v$が生じます。
コイルを貫く磁束を$\Phi$としますと、起電力は
\begin{equation}
v = -\frac{d\Phi}{dt}
\end{equation}
となります。
コイルを貫く磁束が時間変化することによって、起電力が発生します。
磁場の時間的な変動によって、起電力が生じる現象をファラデーの法則といいます。
コイルは抵抗を持った導体なので、起電力により電圧がかかると、コイルに電流が流れます。
図2.時間に変動する磁場中のコイル
今度は磁場の発生源としてのコイルを考え、コイルの近くに金属板を配置します。
図3.金属板と励磁コイル
コイルには交流電源を接続し、時間的に変動する磁場を発生させます。
今度は金属板を貫く磁束が時間変化することによって、起電力が生じ、電流が流れます。
この電流を渦電流と呼びます。
電流が流れますと、抵抗を持つ金属板は発熱します。
金属板とコイルとは離れているのに、金属板を加熱することができます。このような方法で加熱することを誘導加熱といいます。
IH調理器や誘導炉などのように積極的に加熱したい場合もあれば、反対に、変圧器の鉄心のように、発熱させたくない場合もあります。
2. 表皮効果と表皮厚さの計算
誘導加熱の特徴として、金属板に流れる渦電流は表面に集中します。これを表皮効果と呼びます。
表面の渦電流が1/eに減少する表面からの距離を表皮厚さといいます。
表皮厚さ$\delta$は以下の式で計算することができます。
\begin{equation}
\delta = \frac{1}{\sqrt{\pi f \sigma \mu}}
\end{equation}
$f$:周波数、$\sigma$:電気伝導率、$\mu$:透磁率
($\mu=\mu_r \times \mu_0$、$\mu_0$:真空の透磁率、$\mu_r$:比透磁率)
イメージとしては、下図のようになります。
図4.表皮効果
周波数:高
電気伝導率:大
比透磁率:大
に、なればなるほど表皮厚さは薄くなります。
磁界シミュレーションにおいて、急激に変化する表皮厚さを表現するには、少なくとも、厚さ方向に2~3分割のメッシュ分割が必要です。
3. 解析例:渦電流と発熱密度の分布
ここで、簡単ですが、解析例を示します。
金属板の直下にコイルを配置し、交流の電流を流します。解析では4分の1モデルとしました。
図5.解析例 モデル概要
次にコイル側から見た金属板の渦電流密度、発熱密度の結果を示します。
図6.解析結果 渦電流密度[A/m2] 絶対値
図7.解析結果 発熱密度[W/m3]
金属板表面に、渦電流や発熱密度が集中していることがわかります。
上記の例では、渦電流が流れる対象として、コイルに対向する金属板を考えましたが、磁場の発生源であるコイルにも渦電流が流れています。
ここでは簡単に交流電源に接続された円筒導体の渦電流を考えます。
図8.1次側導体の渦電流
円筒導体(直径10mm)に流れる渦電流密度のシミュレーション結果を以下に示します。渦電流が導体の表面に集中していることがわかります。
これも表皮効果と呼ばれています。電流が表面に集中して流れるので、電流密度が不均一となり、直流の場合と比較して、交流の場合は抵抗が大きくなることを意味しています。
図9.円筒導体の渦電流密度分布 絶対値
このように導体に電流を流すバスバーのシミュレーションも可能です。
上記では、誘導加熱によって生じる発熱が計算できることをご紹介致しました。
今度は、発熱密度を使いますと、温度の計算が可能になります。いわゆる連成解析です。
詳しい解析条件、結果は解析事例をご覧ください。(下記リンクより)
● 解析事例1:電縫管
図10.誘導加熱解析 詳細はこちら->
●解析事例2:鉄板
図11.鉄板の誘導加熱解析 詳細はこちら->
4. 磁場と熱の連成解析(弱連成・強連成)
磁場-熱の連成解析の解析の流れは下図のようになります。最初の磁場解析で得られた発熱密度が常に与えられています。
一方向のみの解析を弱連成解析といいます。
図12.弱連成の解析の流れ
キュリー点のように、磁気特性が温度に依存する場合があります。このような場合は、温度が変化すると、
磁気特性も変える必要があります。そのときは、磁場解析を再度実施する必要があります。
図13に示す双方向の解析を強連成解析といいます。
図13.強連成の解析の流れ
強連成解析(双方向)の解析事例として、歯車の焼き入れを示します。
指定の温度で比透磁率が小さくなる条件を使用しています。
そのため、発熱量も低下する結果となっています。
詳しい解析条件、結果は解析事例をご覧ください。(下記リンクより)
●解析事例3:歯車の焼き入れ
図14.歯車の焼き入れ 強連成解析の事例
詳細はこちら->
コイルの中を導体が移動しながら、加熱されるような解析も可能です。
●解析事例4:円筒導体
図15.円筒導体の誘導加熱解析の事例
解析結果はこちら->
磁界シミュレーションでは、
磁場分布
渦電流分布
発熱密度分布
発熱量
インダクタンス
など
を計算することができます。
磁場解析で計算された発熱密度を熱伝導解析の入力条件として使用すれば定常状態の温度分布や温度の上昇速度などが計算できます。
被加熱体の形状、物性値、コイルの径、電流値、巻き数やコイルと被加熱体の距離などを変更して、
コンピュータ上で様々な条件を予め試すことができます。是非ご活用いただければと思います。
5. 誘導加熱解析ソフト PHOTO-EDDYjω & THERMO
●使用したソフトウェア
■PHOTO-EDDYjω & THERMO
PHOTO-Seriesは、誘導加熱解析で必須の、比透磁率の温度依存性、電気伝導率の温度依存性などの機能を標準搭載しています。さらに、ワークやコイルの移動が伴う解析に適しており、移動による加熱ムラや温度分布の変化を精密にシミュレーションすることが可能です。
周波数応答動磁場解析ソフトウェア PHOTO-EDDYjω
詳細はこちら->
熱伝導解析ソフトウェア:PHOTO−THERMO
詳細はこちら->
連成システム
詳細はこちら->
6. 磁場解析の基本方程式
最後に、簡単ですが、磁場解析の基本方程式に触れたいと思います。
変位電流が無視できる低周波の場合の磁場解析の基本方程式は磁場の強さ$\mathbf{H}$、入力の電流密度$\mathbf{J}_0$、電気伝導率$\sigma$、電場$\mathbf{E}$としますと、
\begin{equation}
\mathrm{rot} \, \mathbf{H} = \mathbf{J}_0 + \sigma \mathbf{E}
\end{equation}
です。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\mathbf{B} &= \mu \mathbf{H} \\
\mathbf{B} &= \mathrm{rot} \, \mathbf{A} \\
\mathbf{E} &= -\frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}
\end{aligned}
\end{equation}
上の3つの式を使用し、周波数応答解析で考えますと、
\begin{equation}
\mathrm{rot} \left( \frac{1}{\mu} \mathrm{rot} \, \mathbf{A} \right) = \mathbf{J}_0 – j \omega \sigma \mathbf{A}
\end{equation}
となります。(参考:光台通信 その1.周波数応答解析(複素解析)について-> )
未知数のベクトルポテンシャル$\mathbf{A}$が計算できれば、磁束密度$\mathbf{B}$や電場$\mathbf{E}$を求めることができます。
さらに、
\begin{equation}
W = \sigma |\mathbf{E}|^2
\end{equation}
から、発熱密度$W$を得ることができます。
7. 誘導加熱解析事例集 & お問合せ
●誘導加熱解析事例集
誘導加熱解析の事例を集めた事例集をご用意致しました。
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