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【技術情報】有限要素法入門

4.5 電流ベクトルポテンシャル法


ここまで、マックスウェルの方程式の、
\begin{equation}
\mathrm{div}\boldsymbol{B}=0 \notag
\end{equation}
と、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \notag
\end{equation}
からベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャル、
\begin{equation}
\begin{split}
&\boldsymbol{B}=\mathrm{rot}\boldsymbol{A} \\
&\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}-\mathrm{grad}\phi
\end{split} \notag
\end{equation}
を定義して使ってきました。

低周波電磁場を扱う場合これとは異なるポテンシャルを考えることが可能です。次のマックスウェルの方程式、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\boldsymbol{J}+\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t} \notag
\end{equation}
は低周波の場合は右辺第2項の変位電流の項は無視することが出来ます。
右辺の第1項と第2項の大きさの見積もりとして、金属内の電流の場合、第1項はオームの法則より、
\begin{equation}
\boldsymbol{J}=\sigma\boldsymbol{E} \notag
\end{equation}
であるのに対して第2項の変位電流の大きさは角周波数を $\omega$ として、
\begin{equation}
\omega\epsilon\boldsymbol{E} \notag
\end{equation}
となります。ここに $\sigma$ は金属の電気伝導率で、$\epsilon$ は誘電率です。
したがって第1項と第2項の大きさの比は、
\begin{equation}
\sigma \hspace{5mm} : \hspace{5mm} \omega\epsilon \notag
\end{equation}
となります。ちなみに通常の金属では左辺の電気伝導率は $10^6$ 度の大きさで、右辺の誘電率は真空の場合 $10^{-12}$ 程度ですので、角周波数がかなり大きくないと右辺は無視できます。
この場合この方程式は、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\boldsymbol{J} \tag*{$(4.5-1)$}
\end{equation}
とかけるので両辺の発散をとることによって次の式を得ることが出来ます。
\begin{equation}
\mathrm{div}\boldsymbol{J}=0 \tag*{$(4.5-2)$}
\end{equation}
この式より磁束密度の発散がゼロであることからベクトルポテンシャルを定義したように次のベクトル場 $\boldsymbol{T}$ を定義することが出来ます。
\begin{equation}
\boldsymbol{J}=\mathrm{rot}\boldsymbol{T} \tag*{$(4.5-3)$}
\end{equation}
このベクトル場は電流を表しているので電流ベクトルポテンシャルとよばれています。この式を(4.5-1)式に代入して少し変形すると次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}(\boldsymbol{H}-\boldsymbol{T})=0 \notag
\end{equation}
ベクトル解析では回転をとってゼロとなる場合はあるスカラー場 $\Omega$ が存在して、
\begin{equation}
\boldsymbol{H}-\boldsymbol{T}=-\mathrm{grad}\Omega \notag
\end{equation}
とかけることが保証されます。少しかきかえると次のようになります。
\begin{equation}
\boldsymbol{H}=\boldsymbol{T}-\mathrm{grad}\Omega \tag*{$(4.5-4)$}
\end{equation}
このスカラー場を電流スカラーポテンシャルとよびます。
もし電流がない場合は(4.5-1)式より磁気ポテンシャルが定義できますが、電流ベクトルポテンシャルがゼロの場合この $\Omega$ はこの磁気ポテンシャルに対応しています。

次にこれらのポテンシャルが従う方程式を求める必要があります。マックスウェルの方程式でこれらのポテンシャルの定義に使った式を除くと、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \notag
\end{equation}
が考えられます。ここで金属内部でオームの法則を使うと、
\begin{equation}
\boldsymbol{E}=\frac{1}{\sigma}\boldsymbol{J} \notag
\end{equation}
ですからこれを電流ポテンシャルを使って書き換えて上の式に代入すると次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\frac{1}{\sigma}\mathrm{rot}\boldsymbol{T}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \tag*{$(4.5-5)$}
\end{equation}
右辺の磁束密度は透磁率を $\mu$ とすれば、
\begin{equation}
\boldsymbol{B}=\mu\boldsymbol{H} \notag
\end{equation}
ですが、ここでは導体の作る磁場と駆動用の外部磁束密度 $\boldsymbol{B}_0$ に分けて、
\begin{equation}
\boldsymbol{B}=\mu(\boldsymbol{T}-\mathrm{grad}\Omega)+\boldsymbol{B}_0 \notag
\end{equation}
とかくと、この透磁率が非線形であっても時間に依存しないとすれば次のようにかくことが出来ます。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\frac{1}{\sigma}\mathrm{rot}\boldsymbol{T}=-\mu\frac{\partial\boldsymbol{T}}{\partial t}
+\mu\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{grad}\Omega-\frac{\partial\boldsymbol{B}_0}{\partial t} \notag
\end{equation}
空間微分と時間微分が交換できることを利用して少し変形すると次のようになります。
\begin{equation}
\mu\frac{\partial\boldsymbol{T}}{\partial t}+\mathrm{rot}\frac{1}{\sigma}\mathrm{rot}\boldsymbol{T}
+\mu\mathrm{grad}\bigl(-\frac{\partial\Omega}{\partial t}\bigr)=-\frac{\partial\boldsymbol{B}_0}{\partial t} \tag*{$(4.5-6)$}
\end{equation}
この式は(4.4-1)式を透磁率を使ってかいた次の式、
\begin{equation}
\sigma\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}+\mathrm{rot}\frac{1}{\mu}\mathrm{rot}\boldsymbol{A}+\sigma\mathrm{grad}\phi=\boldsymbol{J} \notag
\end{equation}
と次の対応を付けると同じ形をしています。
\begin{equation}
\begin{split}
\boldsymbol{T} \hspace{8mm} &\longleftrightarrow \hspace{5mm} \boldsymbol{A} \\
\mu \hspace{8mm} &\longleftrightarrow \hspace{5mm} \sigma \\
\sigma \hspace{8mm} &\longleftrightarrow \hspace{5mm} \mu \\
-\frac{\partial\Omega}{\partial t} \hspace{5mm} &\longleftrightarrow \hspace{5mm} \phi \\
-\frac{\partial\boldsymbol{B}_0}{\partial t} \hspace{3mm} &\longleftrightarrow \hspace{5mm} \boldsymbol{J}
\end{split} \notag
\end{equation}
したがってこの式の両辺の発散をとれば(4.4-2)式に対応した、
\begin{equation}
\mathrm{div}\mu\bigl(\frac{\partial\boldsymbol{T}}{\partial t}-\mathrm{grad}\frac{\partial\Omega}{\partial t}\bigr)
=-\mathrm{div}\frac{\partial\boldsymbol{B}_0}{\partial t} \tag*{$(4.5-7)$}
\end{equation}
と連立させて解くことが出来ます。要素行列や要素ベクトル、そしてこれらを足しこんで作る全体の行列方程式は上 $\boldsymbol{A}-\phi$ 法との対応から同じ手続きによって作成できますのでここでは説明を省略します。