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【技術情報】光台通信

その11.電磁場の多重極展開について

電磁場を表現する方法の一つに多重極展開があります。静電場を例にとって説明します。いま電荷が存在する領域をΩとし、
その外側の領域をVとします。

領域Vでは、静電ポテンシャルはLaplace方程式を満たします。

無限遠でが0になる条件で、Laplace方程式の解は以下の様に展開することができます。

ここでは球面調和関数です。(2)式を静電ポテンシャルの多重極展開といいます。定数を多重極モーメントといい、領域Ω内で定義される電荷密度分布との間に以下の関係が成り立ちます。

(2)、(3)式の物理的な意味は、任意の静電ポテンシャル(あるいは電場)は、多重極モーメントの重ね合わせで表現できるということです(図 2参照)。全電荷を 、電気双極子モーメントをで定義すると、以下の関係があります。

以下、l=2,3…に対して、電気四重極モーメント、電気八重極モーメント、と対応します。

テストとして、半径0.1mの球の内部でN個の電荷がランダムに分布している状況を考えます。個々の電荷は-1から1の間でランダムな値をとるものとします。このとき個々の電荷の座標と電荷の値から、任意の場所における静電ポテンシャルの値は、Coulombの法則により以下の様に解析的に求めることができます。

いまN=5のときに、半径0.3mの球面上で(5)式で求めた解析解と(2)式の多重極展開の式から得られた解を比較します。多重極モーメントは各計算点における解析解から最小二乗法によって求めました。多重極展開のの最大値としては0から10まで変化させました。以降、の最大値のことを(多重極)展開の次数と呼ぶことにします。図 3に解析的に求めた静電ポテンシャルの分布を示します。また図 4に展開の次数を、0、1、2、3、5、10に取ったときの多重極展開による静電ポテンシャルの分布を示します。図 3と図 4を比較すると展開の次数を大きく取るほど、多重極展開による分布は実際の分布に近くなることがわかります。

これまでは静電場を例に多重極展開を説明しましたが、電磁波(高周波)に対しても同様の手法が適用できます。電場の時間変化をと書くと、電場に関する多重極展開は

と書くことができます。ここではそれぞれ磁気多極場成分と電気多極場成分です。(2)式と(6)式を比較すると、スカラー量とベクトル量の違いはありますが、表現は似ていることがわかります。
(6)式で=1の成分は、双極子放射(微小ダイポールアンテナ)による電場に相当します。以下、=2,3…に対して、四重極子放射、八重極子放射による電場が対応します。テストとして、半径3mの球面上で解析解と多重極展開による分布を比較しました。波源は周波数100MHzの微小ダイポールアンテナを想定し、中心からの距離[m]が(x,y,z)=(0.5,0,1)で、z方向を向いているものとしました。図 5に解析的に求めた電場強度分布を示します。電場は複素数のベクトルですが、ここでは実部と虚部それぞれの強度を表しています。

先と同じく、各計算点上の解析解の値から最小二乗法により多重極展開の係数を求めました。展開の次数を1,2,3,10としたときの、多重極展開による電場分布を図 6に示します。やはり展開の次数を大きくするほど、実際の分布(図 5)に近くなることがわかります。

次にの時に得られた係数の組から、同じ多重極展開の式より遠方の場を計算し、解析解と比較しました。遠方場のメッシュとして半径20mの球面上で計算した結果を図 7に示します。各分布を比較すると、多重極展開により求めた分布が解析解に良くあっていることがわかります。以上より、多重極展開の係数(モーメント)が求められれば、電磁波の湧き出しのない空間における電磁界分布が計算できることがわかります。