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【技術情報】有限要素法入門

4.1 動的な磁場の方程式


動的な磁場についても基礎的な方程式は静磁場の方程式(2.1-1)式と同じです。ただし電流はあらかじめ与えられる強制電流だけではなく電場によって導体内部に発生する電流も考える必要があります。
導体内部では次のオームの法則が成り立ちます。
\begin{equation}
\boldsymbol{J}=\sigma\boldsymbol{E} \tag*{$(4.1-1)$}
\end{equation}
ここに $\sigma$ は電気伝導率で、$\boldsymbol{E}$ は電場です。

これより動的な磁場に関する基礎方程式は次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\sigma\boldsymbol{E}+\boldsymbol{J} \tag*{$(4.1-2)$}
\end{equation}
ファラデーの法則は、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \tag*{$(4.1-3)$}
\end{equation}
ですから、磁束密度をベクトルポテンシャルで表すと次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{rot}\boldsymbol{A} \notag
\end{equation}
これより、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\bigl(\boldsymbol{E}+\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}\bigr)=0 \notag
\end{equation}
となるのでベクトル解析よりこの左辺のカッコの中はスカラー場 $\phi$ の勾配としてあらわされます。
\begin{equation}
\boldsymbol{E}+\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}=-\mathrm{grad}\phi \notag
\end{equation}
これより電場は、
\begin{equation}
\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}-\mathrm{grad}\phi \tag*{$(4.1-4)$}
\end{equation}
とかけます。ここにスカラー場 $\phi$ はスカラーポテンシャルとよばれています。
これを(4.1-2)式に代入して少し変形すると次のようになります。
\begin{equation}
\sigma\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}+\mathrm{rot}\boldsymbol{H}+\sigma\mathrm{grad}\phi=\boldsymbol{J} \tag*{$(4.1-5)$}
\end{equation}
この式の左辺第2項は磁性体の磁化特性に依存しますが、磁束密度を通してベクトルポテンシャルに依存しており、右辺の電流密度が決まればこの方程式を解くことによってベクトルポテンシャル $\boldsymbol{A}$ とスカラーポテンシャル $\phi$ が決まるように思われます。
ただしこの方程式は成分の数すなわち3次元の場合は3個の方程式であるのに対して、ベクトルポテンシャルの3成分とスカラーポテンシャルで合計4個の未知数がありこのままではこの方程式を解くことができません。

ここでベクトルポテンシャルが同じ磁束密度を表現する自由度としてゲージの自由度があったことを思い出してください。
すなわち $\chi$ を任意のスカラー場として、
\begin{equation}
\boldsymbol{A}^\prime=\boldsymbol{A}+\mathrm{grad}\chi \tag*{$(4.1-6)$}
\end{equation}
としても同じ磁束密度を表すことができます。
それではこの場合電場はどのようになるでしょうか。
\begin{equation}
\boldsymbol{E}^\prime=-\frac{\partial}{\partial t}(\boldsymbol{A}+\mathrm{grad}\chi)-\mathrm{grad}\phi
=-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}-\mathrm{grad}\phi-\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{grad}\chi \notag
\end{equation}
このように右辺第3項が出てきて電場は変化してしまいます。
そこでスカラーポテンシャルも次のように変化すると考えます。
\begin{equation}
\phi^\prime=\phi-\frac{\partial\chi}{\partial t} \tag*{$(4.1-7)$}
\end{equation}
この場合、
\begin{equation}
\boldsymbol{E}^\prime=-\frac{\partial}{\partial t}(\boldsymbol{A}+\mathrm{grad}\chi)-\mathrm{grad}\bigl(\phi-\frac{\partial\chi}{\partial t}\bigr)
=-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}-\mathrm{grad}\phi=\boldsymbol{E} \notag
\end{equation}
となり電場も変化しなくなります。
このようにベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを(4.1-6)式と(4.1-7)式によって変換した場合、磁束密度も電場も変化しなくなります。したがってこのような変換を行っても同じ電磁場を表すことになります。このような変換をゲージ変換とよんでいます。

このゲージ変換によってスカラーポテンシャルをゼロにすることができます。ゼロでないスカラーポテンシャルに対してこれをゼロにするゲージ変換は(4.1-7)式の右辺をゼロにするような変換、
\begin{equation}
\chi=\int\phi dt \notag
\end{equation}
によって実現できます。このようなゲージを使うと(4.1-5)式は次のようになります。
\begin{equation}
\sigma\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}+\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\boldsymbol{J} \tag*{$(4.1-8)$}
\end{equation}
この式を解くには左辺にベクトルポテンシャルの時間微分があるので時間で積分する必要があります。ところが左辺第2項はこのベクトルポテンシャルに依存するためこのまま時間積分を行うことはできません。
特殊な場合として時間変化が一定の周波数を持つような場合はこのような積分を求めなくてもこの方程式を解くことができ周波数応答解析とよばれています。
一般の時間変化を扱うには上の積分を行う必要があり数値的な計算が必要になります。

次の節では周波数が一定の時間変化をする周波数応答解析について述べ、そのあとの節で一般の時間変化を扱う過渡応答解析について述べます。