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【技術情報】電磁気学入門

6. 電磁場の基礎方程式


 前回までに得られた電場と磁場に関する方程式をまとめると以下のようになります。
\begin{equation}
\begin{split}
&\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \\
&\mathrm{div}\boldsymbol{B}=0 \\
&\mathrm{div}\boldsymbol{D}=\rho \\
&\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\boldsymbol{J}
\end{split} \tag*{$(6-1)$}
\end{equation}
ただし、
\begin{equation}
\begin{split}
&\boldsymbol{D}=\epsilon_0\boldsymbol{E}+\boldsymbol{P} \hspace{12mm} \\
&\boldsymbol{H}=\frac{1}{\mu_0}\boldsymbol{B}-\boldsymbol{M}
\end{split} \tag*{$(6-2)$}
\end{equation}
です。また、電気伝導率 $\sigma$ の導体内部ではオームの法則を使って電流密度 $\boldsymbol{J}$ を次のようにかくことができます。
\begin{equation}
\boldsymbol{J}=\sigma\boldsymbol{E} \tag*{$(6-3)$}
\end{equation}
ところで、前回の終わりにも述べたように電荷が生成も消滅もしないという経験的な事実があります。これはある領域 $V$ を考えたとき、ここから流れ出す電流によって運ばれる電荷の量とこの領域 $V$ で減少する電荷の量が等しいというように表現できます。この領域 $V$ を取り囲む閉曲面 $S$、この曲面上に外向きにとった単位法線ベクトルを $\boldsymbol{n}$ とすれば、この領域から単位時間あたりに流出する電荷量は次のように表されます。
\begin{equation}
\int_S\boldsymbol{J}\cdot\boldsymbol{n}dS=\int_V\mathrm{div}\boldsymbol{J}dV \notag
\end{equation}
一方、この領域で単位時間に減少する電荷の総量は、
\begin{equation}
-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\rho dV \notag
\end{equation}
となりますから、
\begin{equation}
-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\rho dV=\int_V\mathrm{div}\boldsymbol{J}dV \notag
\end{equation}
が成立します。時間に関する微分と空間積分とはどちらを先に行っても同じなので、この式は次のようにかけます。
\begin{equation}
\int_V\bigl(\frac{\partial\rho}{\partial t}+\mathrm{div}\boldsymbol{J}\bigr)dV=0 \notag
\end{equation}
この領域をどこにとってもこの式は成り立ちますので、結局次の式が成立します。
\begin{equation}
\frac{\partial\rho}{\partial t}+\mathrm{div}\boldsymbol{J}=0 \tag*{$(6-4)$}
\end{equation}
電荷の生成と消滅がないという経験的な事実は、電荷が保存されることを示しているので電荷保存の法則といい、この式のことを連続の式とよびます。
 ここで(6-1)式の第4式の両辺の発散をとると次の式が得られます。
\begin{equation}
0=\mathrm{div}\boldsymbol{J} \tag*{$(6-5)$}
\end{equation}
この式と(6-4)式を比較すると、
\begin{equation}
\frac{\partial\rho}{\partial t}=0 \notag
\end{equation}
が成り立ち、ある場所の電荷密度が時間的に変化できないことになります。この結果は明らかに経験事実と反します。(6-4)式は経験事実をもとに得られたものですから(6-5)式を導いた(6-1)式の第4式に問題があることになります。このことは、この式は経験より得られたものであるがあくまで近似式であり、ある微小な項が無視されていることを示しています。ここで(6-4)式に(6-1)式の第3式を代入すると次の式が成り立ちます。
\begin{equation}
\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{div}\boldsymbol{D}+\mathrm{div}\boldsymbol{J}=0 \notag
\end{equation}
空間微分と時間微分の順序を入れ替えてもよいので、この式は、
\begin{equation}
\mathrm{div}\bigl(\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t}+\boldsymbol{J}\bigr)=0 \notag
\end{equation}
となります。この式のかっこの中は、発散をとるとゼロとなるという意味で(6-1)式の第4式の左辺と同じ性質を持っています。そこで(6-1)式の第4式の右辺をこのかっこの中の量で置き換えてみると次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t}+\boldsymbol{J} \tag*{$(6-7)$}
\end{equation}
この式の両辺の発散をとれば連続の式が得られることは今までの議論で明らかです。この式は経験的に得られた式ではないので、電磁場に関する正しい方程式であると認めるためにはここで付加した右辺第1項の存在によって導出される結果を経験的事実によって確認する必要がありますが、その前にこの式の右辺第1項が第2項に比べて非常に小さいことを示します。そうでなければ(6-1)式の第4式が近似的に成り立っているという経験的な事実と矛盾することになります。
 今、場が時間的に一定の周波数 $f$ で振動しているものとしますと、第1項は、
\begin{equation}
\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t}\sim 2\pi f\epsilon\boldsymbol{E} \notag
\end{equation}
となります。一方、通常の金属例えば鉄とか銅では、電気伝導率 $\sigma$ は $10^7\sim 10^8[\mathrm{\Omega^{-1}m^{-1}}]$ 程度ですから第2項は(6-3)式を使い、
\begin{equation}
\sigma\boldsymbol{E}\sim10^7\boldsymbol{E} \notag
\end{equation}
とかけます。これより第1項と第2項の比は、
\begin{equation}
2\pi\epsilon f \hspace{2mm} : \hspace{2mm} 10^7 \notag
\end{equation}
となります。ここで誘電率として真空の誘電率を使うと、
\begin{equation}
2\pi\epsilon_0\sim5.6\times 10^{-11} \notag
\end{equation}
程度となるので、第1項と第2項の比は次のようになります。
\begin{equation}
f \hspace{2mm} : \hspace{2mm} 1.8\times 10^{17} \notag
\end{equation}
これより導体内部において、第1項は第2項に比べて非常に小さく無視できることが分かります。真空中においては第2項はゼロとなるので、第1項を無視できないように思われるのですが、その大きさを見積もると、電場の大きさを $1[\mathrm{V/m}]$ 程度として、
\begin{equation}
\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t}\sim 2\pi f\epsilon_0\boldsymbol{E}\sim5.6\times 10^{-11}f \notag
\end{equation}
となります。ここで周波数を $100\,\mathrm{MHz}$ とすればこの値は $5.6\times 10^{-3}[\mathrm{A/m^2}]$ となりますが、この値は導体を流れる電流が、$1\times 10^6[\mathrm{A/m^2}]$ 程度であることを考えれば非常に小さく、これによって発生する磁場は通常無視することができます。この事実があるからこそ、アンペールの法則すなわち(6-1)式の第4式がまず実験事実として確立されたのです。
 さて、ここで(6-7)式の右辺第1項の存在によって導出される結果を経験事実によって確認することにします。まず真空中での電磁場のふるまいを考えますと、電流も電荷も存在しないので(6-1)式の第3式及び(6-7)式は(6-2)式を使って、
\begin{equation}
\begin{split}
&\mathrm{div}\boldsymbol{E}=0 \\
&\mathrm{rot}\frac{1}{\mu_0}\boldsymbol{B}=\epsilon_0\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t} \\
\end{split} \tag*{$(6-8)$}
\end{equation}
とかけます。もしアンペールの法則に対する修正項がなければこの第2式の右辺がゼロとなりますので、この式は次のようになります。
\begin{equation}
\mathrm{rot}\boldsymbol{B}=0 \tag*{$(6-9)$}
\end{equation}
この式は磁場があるスカラー関数の勾配として表されることを示していますので、
\begin{equation}
\boldsymbol{B}=\mathrm{grad}\phi \notag
\end{equation}
とかけます。この式と(6-1)式の第2式より、次のラプラスの方程式が成立します。
\begin{equation}
\Delta\phi=0 \notag
\end{equation}
考えている領域が十分大きく境界で磁場がゼロとすれば、上の方程式よりこの領域全域で磁場がゼロとなります。そうすれば(6-1)式の第1式の右辺も消えるので、同様の議論からこの領域では電場もゼロとなります。すなわち、電荷や電流から十分離れたところでは電場も磁場も存在しなくなります。このことは一見経験事実と一致しているように思われます。
 それでは(6-8)式の第2式の右辺がある場合はどうなるでしょうか。この場合は明らかに上の議論は成り立たないので、電場がゼロとなるとは限りません。まず(6-1)式第1式の両辺の回転をとると、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\mathrm{rot}\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=-\frac{\partial}{\partial t}\mathrm{rot}\boldsymbol{B} \notag
\end{equation}
となります。ベクトル解析の関係、
\begin{equation}
\mathrm{rot}\mathrm{rot}=\mathrm{grad}\mathrm{div}-\Delta \notag
\end{equation}
と、(6-8)式第2式を使って変形すれば、
\begin{equation}
\mathrm{grad}\mathrm{div}\boldsymbol{E}-\Delta\boldsymbol{E}=-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2} \notag
\end{equation}
となり、さらに(6-8)式の第1式を使うと結局次の式が得られます。
\begin{equation}
\Delta\boldsymbol{E}=\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2} \tag*{$(6-10)$}
\end{equation}
同様にして、(6-8)式の第2式の両辺の回転をとることにより次の式を導くことができます。
\begin{equation}
\Delta\boldsymbol{B}=\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\boldsymbol{B}}{\partial t^2} \tag*{$(6-11)$}
\end{equation}
(6-10)式及び(6-11)式は波動方程式であり、波の位相速度 $c$ は、
\begin{equation}
c=\frac{1}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}} \tag*{$(6-11)$}
\end{equation}
となります。これは驚くべき結果であり、電荷も電流もない真空中を電場・磁場が波として伝わっていくことを示しています。また、その波の速度を真空中の誘電率と透磁率を使って計算すると、
\begin{equation}
c=2.99792458\times 10^8 \hspace{2mm} [\mathrm{m/sec}] \notag
\end{equation}
となります。これは真空中の光の速度と一致します。そこでマックスウェルは光は電磁場の波すなわち電磁波であると考えたのです。電磁場が実際波として伝わることを実験的に示したのはヘルツという物理学者です。
 アンペールの法則に理論的な考察から追加した修正項はこの法則の精度にほとんど効いていないことを定量的に示したのですが、この項の追加によって電磁波の存在を示すことができました。また、この波の速度が光の速度と一致することより、光も電磁波の一種であることが予想されました。このことは現在実験的にも確認されています。これよりアンペールの法則は(6-7)式のように修正されないといけないことが経験事実として示されました。
 以上の議論より物質中の電磁場の基礎方程式は(6-1)式の第1式、第2式、第3式および(6-7)式となることが分かります。これらの方程式はマックスウェルの方程式とよばれており、ニュートンの運動方程式が力学の基礎となっているように電磁場の基礎となっています。ここにこの方程式をまとめてかいておきます。
\begin{equation}
\begin{split}
&\mathrm{rot}\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \\
&\mathrm{div}\boldsymbol{B}=0 \\
&\mathrm{div}\boldsymbol{D}=\rho \\
&\mathrm{rot}\boldsymbol{H}=\frac{\partial\boldsymbol{D}}{\partial t}+\boldsymbol{J}
\end{split} \notag
\end{equation}
ここで電磁場の基礎方程式が得られたので、今後この方程式を使って電磁場の性質についていろいろな議論をしていく予定です。第2章で電荷や電流が電磁場から受ける力を議論したのですが、次回はこの議論を誘電体や磁性体などの物質が電磁場から受ける力について考えていきたいと思っています。