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【技術情報】有限要素法入門

はじめに

電磁場のシミュレーションを行うための数値解析の手段にはさまざまのものがありますが、低周波領域から高周波領域を幅広く扱うものとしては有限要素法があります。特に低周波電磁場の分野では現在有限要素法が最も使われているといっても過言ではありません。

有限要素法による電磁場解析のソフトウェアを使ってシミュレーションを行う場合、有限要素法がどのような手法であるかを知らなくても対象物のモデル化を適切に行い、電磁場の駆動源である電流や磁石を設定し、境界条件を間違いなく設定すれば正しい答えを得ることが出来ます。
有限要素法では対象とする磁性体やコイルとそれらを含む空間を解析領域とし、これらの領域を有限要素とよばれる小領域に分割します。ところが現実の電磁場は遠方まで広がっているのでその領域すべてを解析領域とすることはできません。そこで適当な大きさの領域を設定するのですが、その場合現実にはない境界面が出てきます。その境界で電磁場が十分小さくなっている場合はこの面で電磁場がゼロであると近似し、この境界面上の磁場をゼロと設定します。
このように境界上の値を決めることを境界条件といいますが、境界条件にはこのような遠方の電磁場をゼロとして設定するほかに、モデルの対称性を考慮して解析領域を縮小する場合とか、対象物の周期性を利用して領域の一部を切りだすときにも必要になってきます。

まず、対象とする領域をどのぐらいの大きさに設定するかが問題となりますが、あまり大きくすると知りたい領域の電磁場にあまり寄与しないものまで含めてしまいコンピュータの計算負荷を高めてしまいます。逆に小さくしすぎると寄与の大きな部分まで除いてしまい計算制度を損ねてしまいます。
計算領域が決まれば、その領域をどの程度の有限要素に分割するかが問題となります。細かく分割すればするほど計算結果の精度は向上しますが、データ量が多くなり計算時間もそれに伴って増大します。逆に分割数が少ないと、データ量も少なく、計算時間も短くなりますが精度は悪くなっていきます。
したがって、解析領域をどのように設定してどの程度の分割を行うかは有限要素法による解析を行う上で非常に重要な問題です。

有限要素法による解析の経験をある程度積めばこのようなことについて適切な判断が出来るようになり、必要とされる精度で電磁場のシミュレーションが出来るようになります。
ところが、要素分割によって解析結果の精度がなぜ変化するかは、有限要素法がどのような方法で現実の対象をモデル化しているかの知識が必要です。
また境界条件を設定することが、なぜ必要なのかが分かっていれば現実とシミュレーションの関係が理解でき、精度の向上のためのに何が必要かが分かってきます。
このような中身の理解があれば、解析経験から得られたものをより効果的に体系化でき経験していない対象に対しても正しいモデル化、すなわち求められる精度を保ちながら計算時間など計算機に対する負荷を出来るだけ小さくすることが出来るようになります。

このような観点から、有限要素法を使って電磁場解析を行うときにどのようなことを知っていればよいかということを体系的にまとめました。
まず電磁場についてのシミュレーションなので、扱う電磁場に関する基礎的な法則をどのように有限要素法で扱っていくかを具体的に述べます。
電磁場は周波数がそれほど高くない場合は電場と磁場をそれぞれ別々に扱うことが出来ます。

そこで第1章では電場解析について一つの方向のみに電場が変化する1次元的な問題から始めて、より現実に近い2次元3次元の問題について述べます。

第2章では静的な磁場解析について、2次元問題、軸対称問題、そして3次元問題を取り上げ、磁場に関する基礎方程式をどのように有限要素法で扱うかを具体的に述べます。
3次元の磁場解析では、未知数であるベクトルポテンシャルをエッジの変数として持たせる辺要素法が現在主流となっていますので、節点に未知数を持たせる節点要素法とどのように違うのかを述べ、辺要素法による磁場解析について見ていきます。

第3章では、磁場解析で扱う磁性体について述べます。磁場が小さなときは磁束密度が磁場に比例すると考えて一定の透磁率を持つ磁性体を考えることが出来ますが、一般的には透磁率は磁場の大きさによって変化します。また方向によって磁化特性が異なる場合もありこれらをどのように扱っていくかは、シミュレーションを行う上で非常に重要なことです。
これらを系統的に扱うために磁性体の自由エネルギーを考え、変分法による定式化を紹介します。またこの方法を拡張すれば、履歴によって磁化特性が変わるヒステリシス
を扱うことが出来ます。

第4章では磁場が時間的に変化して導体内に渦電流が発生するような問題をどのように扱うかについて述べています。時間的変化には一定の周波数を持つ定常な状態と、時々刻々変化する過渡的な現象があります。前者は周波数応答解析、後者は過渡応答解析とよばれており、これらを有限要素法に取り入れるにはどのようにするのかについて述べています。このような動的な問題を扱う場合、未知数である電磁ポテンシャルとして、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを用いる場合と、電流ポテンシャルと磁気ポテンシャルを用いる場合がありますのでこれらについてもこの章で紹介します。

第5章では、高周波電磁場について述べます。高周波になると磁束密度の変化が電場を作り、電束密度の変化が磁場を作るので、電場と磁場が密接な関係を持ちます。
従って低周波電磁場のように電場の方程式と磁場の方程式を独立に扱うことが出来ず、マックスウェル方程式全体を基礎方程式として扱う必要があります。
また、高周波電磁場の場合特定の周波数に対して共振モードを持つ場合があり、このような場を扱うためには固有値解析を行う必要があります。
この章ではこのような高周波特有の問題に対してどのように扱うのかということについての話をします。

電流や磁化が分かっている場合これらがどのような磁場を作るかは有限要素法などの数値的な解法を使わなくても求めることが出来ます。
有限要素法を使う必要があるのは、磁性体がどのように磁化するかや、導体内部を流れる渦電流などがシミュレーションを行って結果的に知ることが出来るものだからです。
第6章では既知である電流や磁化を含んだシミュレーションで、解析的に計算出来る電磁場と有限要素法の併用法について述べます。

第7章では、誘電体や磁性体に働く電磁力について述べます。電磁力としては電流に働くローレンツ力はよく知られていますが、磁性体に働く力をどのように評価するかについてはあまり知られていません。電磁場解析の目的としては磁性体が電磁場からどのような力を受けるかが問題となる場合が多くありますので、これらをどのように扱えばよいかを述べています。

有限要素法を理解するには簡単なプログラムを自分で作ってみるのが一番よい方法だと思われます。そこで、静電場解析を扱う有限要素法のプログラムを作ってみることにしました。
各章の終わりには本文とは独立にこのプログラムの具体的な例を挙げています。
章の終わりにこのプログラムをご自分でコーディングしてゆけば第7章の終わりにこのプログラムが完成するようになっています。
またこのプログラムを実行すれば、本文にある静電場の有限要素法の例として取り上げた問題の結果を求めることができプログラムのチェックが出来るようになっています。
このプログラムは単純な問題しか解けませんが、少し変更することによって線形誘電率ばかりではなく非線形誘電率を扱ったり、電場の駆動源として電荷密度を与えるようになっていますが、境界条件として電位を与えたりすることが出来るようになります。
このようにこのプログラムをベースに本文にかかれていることをいろいろと試すことは、有限要素法を具体的に理解するうえで非常に役に立つことだと思います。